同人誌の表紙デザインサービスをはじめて約半年、おかげさまで日々楽しく制作させていただいております。
その中で「外注に不慣れで要望をどう伝えればいいのかわからない」というご相談をよくいただきます。一方で「なんてスマートで作りやすい発注内容なんだ」と舌を巻くようなご依頼をいただくこともあり「同人誌表紙の外注ハウツーは存在するのに、あまり知られていないのかも」と感じている今日このごろです。
今回は筆者が「なんという発注強者!」と感じた方に共通するいくつかの特徴をご紹介しつつ、ご相談の回答となるような記事を書いていきたいと思います。
- あくまで「at choiに表紙を発注する場合」のお話です。ある程度の普遍性があるとは思いますが、ほかのデザイナーさんが運営しているサービスでも同じことが言えるわけではありません。
- 文芸系の同人誌を作る方向けに書いていますが、作品が漫画やイラストの場合にも当てはまる部分はあると思います。
- 正直なところもくじが内容のすべて
箇条書きにする
at choiの発注フォームは本の仕様(本のサイズ、背幅、用紙など)についてこちらが知りたいことは個別に入力欄を設けているため、書き忘れもしにくいです。なので、発注される方が戸惑ったりハードルを感じたりするのは自由記述欄だろうと思います。
伝えたい内容は些細なことであっても、実際に文章を作る・考えるのって頭も時間も使いますし、本当に大変ですよね…。自由記述欄はシンプルな箇条書きでまったく問題ありません。どうか発注用の作文ではなく原稿に力と時間を注いでください。
- 自由記述欄がプレッシャー
- 箇条書きで大丈夫
- 原稿がんばってください
抽象的な表現を避けて具体的に伝える
希望や要望はできるだけ具体的にお書きください。どうとでも取れるような表現で書いてしまうと事故が起きる可能性があります。
「具体的とは?事故とは?」と疑問に思う方もいらっしゃると思うので、大げさな架空の例をあげておきます。
たとえば「本のタイトルは『マジカル』。ピンク基調の可愛い感じで」とご依頼があったとします。
世間一般で言う「ピンク基調で可愛い」の分類にはトイ・ス○ーリー3のロッツォ(ピンク色のクマ)も、まど○ギのまどか(ピンク色の魔法少女)も入っていると思われますが、まるでテイストが違いますよね。
この依頼内容では、お客様はトイ・ス○ーリー3的なポップなテイストを求めていたにもかかわらず、タイトルを含む依頼内容からまど○ギを思い浮かべたデザイナーが魔法少女っぽいデザインを納品するという事故が起きる可能性があります。
この場合であれば「本のタイトルは『マジカル』。ピンク基調の可愛い感じがよい。トイ・ス○ーリー3のロッツォのポップさが近い」のように書いていただけると事故の可能性が低くなります。
とはいえ、どうしても抽象的になってしまうこともあると思います。こちらも「どう受け取ったらいいだろう?」と感じたら確認するようにしていますので、とりあえず詳しめに書いてみてください。
また、言葉での表現でなくても大丈夫です。イメージに合う画像や動画などがある場合はぜひお見せください。
それから、意外かもしれませんがご希望はあるていど数があった方がこちらもデザインしやすくなります(発注強者の方は細かいご指定をくださる場合が多いです)。
×=事故の可能性あり ◎=事故の可能性は低い
×高級感
◎結婚式の招待状のような英 語の筆記体が映えるエレガントさ
◎海外コスメのパッケージのようなシンプルさ
×バンドっぽいかっこいい感じ
◎△△(アーティスト名)のアルバムジャケット全般、特に3rdアルバムが希望する雰囲気に近い
具体的すぎると逆に応えられないことがあるかも…
ご希望は具体的にと書いた手前「はあ?」という感じで申し訳ないのですが、具体的すぎてもお応え出来ない場合があります。
たとえば「アムステルダムの荒んだ雰囲気の路地裏で男性二人が背中合わせで喫煙している写真を背景に使ってほしい」とご依頼があったとします。
この場合、お客様から写真素材をご提供いただけるなら問題ありません。ですがこちらで用意しなければならないとなると、指定が具体的すぎるあまり見つけられないことがほとんどです。申し訳ありませんがどこかで妥協していただくか、お断りせざるを得ないかもしれません。
やってほしくないことを伝える
やってほしくないことも具体的にお伝え下さい。
これも極端な例ですが、ご依頼があった本のタイトルが『clover〜幸せのありか〜』だったとします。
添えていただいたあらすじを読んで物語に四ツ葉のクローバーが深く関わっていることは明らかと判断したデザイナーは四ツ葉のクローバーを表紙のメインビジュアルにしようと考えました。でも、実はお客様は四ツ葉のクローバーを表紙に入れるのはやめてほしいと思っていたとします。こうなると悲しい事故が発生します。
特にこの例のように「いかにもやられそう」な範囲にやってほしくないことがある場合はお書き忘れなきようお願いします。
ひたすら作品を語る
「イメージなんてない。1から10までそちらでやってくれ!」と思われる方もいらっしゃると思います。がんばります。
とはいえ、情報ゼロでは作れないので、ぜひ作品について語ってください。「これこれこういう気持ちをわかってほしくて作品をつくった」でもいいですし、「この本に登場するAとBの関係性のサビはここ!」でも構いません。
できるだけ赤裸々に語っていただけるとこちらも核心に迫ったお仕事ができます。私もオタク歴20年のサブカル物好きです。発注内容は私しか読みません。安心してください。
今までにつくった作品を見せる
表紙のイメージが浮かぶ方も、思いつかない方も、もし日常的に創作物を公開している媒体がありましたらぜひお見せください。作品そのものが持つ傾向はもちろん、ビジュアル的な好みを察する上でも非常に参考になります。
たとえばpixiv。小説を投稿するときに表紙を設定する項目があって、デフォルトで何枚かデザインが用意されていますよね。そこからどれを選んでいるかだけでもこちらとしては察せるものがありますし、オリジナルの画像が設定されていればさらに好みがわかりやすいです。Twitterのヘッダー・アイコンやSS名刺メーカーなどのツールで選ぶデザインなどでも同じことが言えます。
ほかにもなにか見た目にかかわるものをご自身の好みで設定しているページがあればぜひ自由記述欄にURLを添えてみてください。
文言をたくさん送る
ここで言う文言というのは表表紙(表1)や背や裏表紙(表4)に入れるテキストのことです。「タイトル」や「著者名」「サークル名」、二次創作の同人誌であれば「ジャンル名」や「unofficial fanbook〜」などが入っていることもあります。
この文言はデザイン上装飾のように使えることもあるので、場合によってはたくさんあったほうが見栄えのする表紙になる可能性が高いです。ただ、表記に作者のポリシーが出る部分でもある(と個人的に思っています)ため、デザイナーが見栄えの都合で勝手に増やすのはなかなか難しく…。なので、使っても良いものをいくつか送っていただけると非常に助かります。
※/区切りはどれかの表記であればOKの意味
- 表紙に入れる文言
- タイトル:タイトル/title/TITLE
著者名:山田/yamada/YAMADA
カップリング名:A*B/A×B/エー×ビー - 背に入れる文言
- タイトル:タイトル/title/TITLE
- 裏表紙に入れる文言
- ◎◎(ジャンル名)unofficial fanbook #1 A*B/
◎◎(ジャンル名)UNOFFICIAL FANBOOK #1 A×B/
◎◎(ジャンル名)UNOFFICIAL FANBOOK #1 エー×ビー
さいごに
今回は思わず感心してしまった発注強者のふるまいをご紹介しました。
この記事に書いてあることは必ず実行しなくてはいけないというわけではありません。基本的には思い思いに書いていただくのが一番です。ただ「なにを書けばいいんだ…」と途方に暮れてしまった方はぜひ参考になさってみてください。
みなさまのご発注をお待ちしております!